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ワインを買って、村上春樹について考える

先日、スーパーでチーズを買おうと思ったら、チョコレートチーズデザートなるものを見つけたので買ってみた。雪印とロイズがコラボして作ったものだという(食べてみたら全然おいしくなかったのでお薦めはしない)。

チーズを買ったついでにワインも買った。ボルサオ(BORSAO)というスペインのワインである。気軽に買えるテーブルワインだが、「ロバート・パーカー絶賛」と書かれた札が瓶の首に掛かっていたから、試しに買ってみたのである。ロバート・パーカーは世界的に影響力のあるワイン評論家で、私がこの人の名前を知ったのは、福田和也の書いた本によってだった。

それは『作家の値うち』という本で、ワイン評論家のパーカーがワインを点数で評価しているように、小説を点数で評価しようと試みた野心作である。この本の中で福田和也は、日本文学における現役作家の中から、純文学作家50人、エンタテインメント作家50人をそれぞれ選び出し、主な作品を100点満点で評価しているのだ。

小説を具体的な点数で評価するという試み自体が前代未聞で、これは過激で面白そうな本だと思って手に取ったのだ。もうだいぶ前に読んだ本だし、既に売ってしまって手元にはないので細部は覚えていないが、なかなか楽しく読ませてもらった。ただし、私はエンタテインメント系の小説をほとんど読まない人間なので、エンタテインメント作家の評価に対しては、それが妥当なものなのかどうか、まったく分からなかった。

さて、世間では福田和也のことを嫌いな人も結構いるようだが、私は、彼が普段どんなことを言っているのかよく知らないので、特に好きでも嫌いでもない。しかし、本書の中で彼は村上春樹を非常に高く評価していて、その点においては極めてまともな感性を持った人だと、当時の私は思ったものだ。

春樹のことを過小評価する、というか、ほとんど嫌っている批評家や作家もいる中で、この福田和也の春樹に対する高評価には、思わず膝を打ったのを思い出す。

さて、だいぶ前のことだが、エンタテインメント系の小説をあまり読まない私が、試しに東野圭吾の小説を読んでみたことがある。とてもよく売れている人だから、きっと面白いのだろうと思ったのだ。読んでみると、たしかに物語は大変面白い。しかし、彼の文章を読むことそのものに何か快感を覚えたかと言えば、まったく覚えなかったというのが実感である。

私は、物語が面白いかよりも、どちらかというと文章を読むことそのものがもたらす快楽を重視する質なので、いわゆる純文学のほうが好きなのだ。

乱暴な言い方をさせてもらえば、文章は良いが物語はさほど面白くない純文学とか、物語は面白いが文章自体は魅力が薄いエンタテインメント小説、というのはたくさんあるだろう。

かつて村上春樹が米国の作家ジョン・アーヴィングと話したとき、「読者を自分の文体の中毒にしてしまうことが大事なんだ」という趣旨のことを、アーヴィングが語ったらしい。いったん中毒にしてしまえば、読者は新刊が出るのを心待ちにしてくれる、と。

村上春樹の独自性の一面は、まさしく、その文体の魅力にあるだろう。
彼の文章というのは、不思議なくらい淀みなくスラスラと読めてしまう。これは、物語が面白過ぎてページをめくる手が止まらない、というのとは少し違う気がする。むろん、彼が書く物語は抜群に面白いのだが、何よりも文章自体が持つリズムとかテンポに秘密があるように思う。
別に、ものすごくリズミックな文章だというわけでもない。むしろその逆で、強調感がまったくなくて、リズムが良いかどうかということ自体が読んでいる人間の意識に上らないくらい、きわめてナチュラルなリズムでありテンポなのだと思う。

文章そのものが、そうした無意識的なリズムの良さを持っているからこそ、彼独自の比喩や哲学的な言い回しが、嫌味にならずにスッと心の中に入ってくるのだと思う。彼の小説は、現実にはありえない出来事が起こったり、ありえない物事が現れるというファンタジー性も持っているが、それらを不思議なくらい自然なこととして読者が受け止めてしまうのも、その文体の持つ魔力ゆえだろう。
読者は、その文章から生み出される彼独特の静かで濃密な世界にすっぽりと入り込み、他の場所では得られない快さを味わうのだ。

いわゆるハルキストというのは、まさにそうした春樹の「文体中毒」になってしまった人たちなのだと思う。
かく言う私自身は、胸を張って「自分はハルキストです」と宣言できるほどの熱狂的なファンではないが、やはり彼の作品が持つ独自の世界に絡め取られてしまっているのは事実だ。

そして彼の素晴らしいところは、そうした文章の持つ魅力のみならず、(上にも書いたが)物語が抜群に面白いことである。大ブームを巻き起こした『1Q84』など、まさしく純文学のクオリティを持つ文章によって最高のエンタテインメントを綴ってしまったという、ある意味奇跡的な作品だった。

かと思えば、例えばデビュー作の『風の歌を聴け』のように、ほとんどストーリーらしきものが存在しないような、短い断片をつなぎ合わせたような作品であっても、その文章の持つクールな感覚やポップで美味しい言葉でもって、読む者を魅了してしまうのだ。

他にもエッセイだって面白いし、レイモンド・カーヴァーを翻訳した一連の作品集も最高に素晴らしい。
まあ要するに、村上春樹は現代に生きる天才だ、ということである。

by raccocin | 2014-09-14 23:02 | 本と雑誌で心の旅を

腹立たしいことがあったとき役に立つ言葉

先週の土曜日は、きわめて不快なことがあった。家族とのメールの中で意見の食い違いがあり、何度かやりとりしているうちに、うんざりしてしまったのだ。正直なところ、メールをやり取りした土日の2日間で、かなり疲れてしまった。本当なら、向こうが悪いのだから、こちらが疲れる必要などないのだが。

そう言えば以前、元同僚にも不快な思いをさせられたことがある。この男は、私に対して謝るべきことがあるのに決して謝ろうとしないし、他にも複数回にわたって私に失礼なことをした輩だ。私は初めのうち、時々それらのことを思い出して腹を立てていた(今では、この男のことは相手にしないようにしている)。

他にも、これも以前の同僚だが、自分が地球の中心であると言わんばかりの自己中心的な女がいた。周囲の人間にも心ない言葉を吐いたりする奴である。この女に対しても私は腹を立て、ひとりでストレスを溜めてしまった。
結局このときは遂に堪忍袋の緒が切れてしまい、「お前は日頃から、人に向かってひどいことを言っているぞ」と、はっきり指摘してやり喧嘩になったのである。

まあ、ああいう奴には言ってやって良かったと今でも思っているし、後で他の同僚からは、よく言ってやったと褒められもした。しかし、言ってやったことで私自身がストレスを受けていたこともまた事実である。
こんな風に、相手が間違っているのだから自分はどっしりと構えていればいいときでも、それができないことがある。

そんなときに思い出すのが、米国の元大統領であるクリントン氏の言葉だ。
その言葉を私が知ったのは、片岡義男の本によってだった。『日本語の外へ』(角川文庫)という本である。せっかくだから、その言葉をここで引用させてもらおう。

《1995年の1月だったと思うが、大統領夫妻がアメリカ国内のどこかの小学校を訪問したとき、幼い女性の生徒から大統領は次のような質問を受けた。
「大統領に激しく反対している人たちと対処していくにあたって、あなたがもっとも留意していることはなにですか」。この質問に対して、大統領は彼女と完璧に対等な立場にきわめて無理なく自分を置き、真正面から次のように答えた。「ほとんどの攻撃の陰には、私を個人的に攻撃してなんらかのダメージをあたえようとする試みがあります。個人的にダメージを受けるということを、絶対に自分に許してはならないのです」》

私は思わず胸を打たれた。さすが米国の大統領にまでなる人は肝っ玉の据わり方が違う。この強さの100分の1でも獲得できたらと憧れを抱いてしまった。


「個人的にダメージを受けるということを、絶対に自分に許してはならないのです」


これからも座右の銘にしたい金言である。このとおり実行するのは、なかなか難しいときもあるけれど。

ところで、この会話が載っているのは《「第1部 アメリカ」遠近法のなかへ ラディカルさの筋道》というところである
アマゾンのサイトを見ると、文庫本は中古しか売っていないようだが、Kindle版が上下巻に分かれて出ていた。本書は2部構成なので、Kindle版なら(上)を買えば「第1部 アメリカ」はすべて読めると思われる(たぶん。保証はしません)。強い心を持ちたい方は、是非参照してください。

by raccocin | 2014-08-30 21:56 | 日々の雑感または身辺雑記

夏休み初日はトランスフォーマー&カフェ ラジオプラントを堪能

先週の土曜から夏休みを取っている。9日から13日までの5連休。7月にバラで2日間の夏休みを取っているから、トータル5日間しかない夏休みはこれで終わってしまう。ヨーロッパみたいに2週間とか3週間の夏休みが取れる国に生まれたかったと時々思う。一体どういう風にやれば、そんなに長い間職場を不在にしても仕事が回るようにできるんだろう。

今私がいる職場は仕事の属人化が著しいので、仮に3週間の夏休みが取れたとしても、きっと少ししたら仕事のことが心配になってしまい、安心して休んでいられなくなるに違いない。

さて、夏休み初日の土曜日は、なぜか早起きして会社に行った。と言うのは、会社の机の引き出しの中に、人からもらったある生ものを入れっぱなしで夏休みに入ってしまったのを思い出したのだ。

月曜日に会社に電話して誰かに捨ててもらおうかとも思ったが、木曜日にもらったこの生ものを、この暑い最中に月曜日まで放置しておいたら、カビが生えるか腐るかしてしまうに違いない。
潔癖性の私のこと、自分の机の引き出しの中でそんな事態が進行することには、とても耐えられない。そこで、「夏休み初日からツイてないなあ」と自分の忘れっぽさを忌々しく思いながら、仕方なく会社に出向いたのだ。

休日出勤する人に会いたくなかったので、早い時間にこっそり行って、そっと引き出しを開けてみた。幸い、まだカビは生えていない。でも、少し色が変わってきている部分があったから、この生ものをくれた人には悪いが処分させてもらった。
それにしても、誰もいない会社に朝早く行って、こっそりひと仕事こなしたら、なにかスパイになったような快感を覚えてしまったから不思議だ。私にとって会社とは、いつまでたってもホームではなくアウェイ、敵地なのだろう。

さて、せいせいした気分で次に私が向かったのは六本木ヒルズだ。せっかく早起きしたのだから、映画の1本でも観ようというわけ。

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ヒルズに着いたら、ドラえもんが大量発生していたから驚いた。でもカワイイ。

で、この日に私が観たのは『トランスフォーマー/ロストエイジ』。
これまた日本人お得意の、原題の英語を別の英語に変更したという珍妙な邦題である。その原題は“Transformers: Age of Extinction”となっている。

“Age of Extinction”は「絶滅の時代」という意味である。この作品では、人間の味方であるはずのオートボットたちが人間に狩られる事態になっていて、そうしたオートボットたちの「絶滅の時代」ということなのだろう。加えて、新たな敵性トランスフォーマーが現れ、それが人類の絶滅を狙うから、という意味もあるのだと思われる。

それにしても、邦題の「ロストエイジ」である。
「失われた時代」と言うが、何が失われたのか。人類のオートボットたちへの信頼が失われた時代、と言いたいのだろうか。

「エイジ・オブ・イクスティンクション」は、たしかに言いやすくはないかもしれないが、元々、日本の配給会社というのは、言いやすさを求めて邦題を付けているとも思えない。
例えば、前作の“Transformers: Dark of the Moon”などは、素直に「トランスフォーマー/ダーク・オブ・ザ・ムーン」とすれば十分に言いやすかったはずで、わざわざ邦題で「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」にした意味は、まったく不明である。

何度も言うが、きちんと日本語に訳すか、原題の外国語をそのままカタカナにするかしたらどうだろう。原題の外国語を他の語に置き換えた変な邦題は、もうやめたほうがいい。と言いながら、これは私の突っ込みのネタにもなるので、完全になくなってしまうと寂しい気もするのだけれど(笑)

ところで、映画自体は、いつもどおり存分に楽しませてもらった。新しく登場したロックダウンなるキャラクターが、人間の敵なのか味方なのかはっきりせず、ミステリアスな魅力がある。ルックスもカッコいいと私は思った。他にも人造トランスフォーマーや恐竜型トランスフォーマーが登場したりと、賑やかで実に楽しい。

3D映像も、さらに進化しているようで思わず感心。ついでに言うと、TOHOシネマズの3Dメガネは、自前のメガネの上からでもしっくりとフィットするので、今回も最高に快適だった。

さて、映画が終わっても、まだ12時半。お腹も空いたし、どこかでご飯を食べようと考えていたら、前から行きたいと思っていたカフェの存在を思い出した。自由が丘駅の近くにある「カフェ ラジオプラント」である。
先日私が世話になったオーディオ店、「サウンドクリエイト・レガート」のFacebookで紹介されていて興味を持ったのだ。自由が丘駅から徒歩5分くらいのところにある。

店に入ると、その名の通り、あちこちに古いラジオが置いてあって、窓の外にはたくさんの緑が見える。本棚には音楽関連の本がずらっと並んでいて、こちらは自由に読めるようだ。

私は本棚の中から、『音盤時代の音楽の本の本』というのに興味を惹かれて手に取った。タイトル通り、音楽に関して書かれた本のガイドブックである。一部を読ませてもらったが、なかなか面白いので後で買うことにした。

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ご飯はカレーセットを注文。インド風のあっさりしたチキンカレーで、結構スパイスが利いている。とても美味しかった。写真が下手ですみません(笑) 

この日はお盆休みでみんなどこかに行ってしまったのか、初めのうち、客は私だけだったので、マスターとしばしオーディオ談義も楽しんだ。このお店にはLINNのDSMが導入されていて、スピーカーはマスターの自作だという。キャビネットは、合板の音が嫌いなのでスプルースの単板を使っているのだとか。他にもLS3/5Aらしきブックシェルフも見えた。

オーディオの写真を撮らせてもらおうかとも思ったけれど、シャイな私は、初めて行った店でいきなり店内の写真を撮るなどできないので断念。あと何回か通ってからにしよう。

良い音を聴きながら美味しいコーヒーを楽しみ、面白い音楽本を読みふける。そんな、ゆったりしたひと時を過ごしたいときにピッタリのお店でしょう。

by raccocin | 2014-08-12 17:46 | 音楽とオーディオが好き

年度末で忙しい でも飲み会とかプロ野球開幕とか

先週は日曜から昨日の土曜まで7日連続勤務だった。たしか去年も、3月の最終週は日曜から土曜まで7日連続勤務をしていて、今年はそんなことには絶対ならないようにしようと思っていたのだが、結局同じことになってしまった。
異動して2年目なのに、まったく進歩がない私である。ひとつ時間がかかりそうな仕事があったから、イヤな予感はしていたんだけどね。やれやれ。

でも毎日残業していたわけではなく、27日(木)は同じ課の仲間3人と一緒に飲み会だった。場所は、渋谷ヒカリエの中にある美々卯という、うどん屋さんである。前菜、お造り、天ぷら、そして上品な薄味の美味しいうどんを楽しんだ。

帰り際、みんなにささやかなプレゼントを渡した。
この4月に別の課へ異動するYさん(♀)には、天下の名盤“Waltz For Debby”のCDを。女性に贈るジャズアルバムと言えば、『ワルツ・フォー・デビー』か『ケルン・コンサート』が一番ですね(笑)

次に、1日3食みんなパンでも構わないというパン好きのOさん(♀)には、雑誌『& Premium 3』を。ズバリ、一冊丸ごと「おいしいパン」特集なのだ。この雑誌、表紙からして妙に垢抜けていて、やっぱりマガジンハウスはひと味違う。

最後に、Kさん(♂)には『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)を。
現代日本人の食の好みやライフスタイルを検証し、そこから見えてくる政治的分断を読み解くという、とっても興味深そうな本である。
「興味深そう」というのは、本屋でこの本を見つけてプレゼント用に買ったはいいものの、自分が読む分はまだ買っていないからだ。どうやらKindle版があるようだから、後でそちらを買っておこう。

さて、28日の金曜にはプロ野球が開幕した。実は、同僚のカープファンに、スポーツバーで一緒に観戦しないかと誘われたのだけれど、断ってしまった。

なぜかと言うと、誘ってくれた彼は喫煙者なのだが、そのスポーツバーには分煙システムがなかったからだ。夜間はどの席でもスパスパ吸っていいらしい。ところが今の私は、全面禁煙あるいは仕切りのある完全分煙でなければ我慢ならないときている。せっかく誘ってもらったのに悪かったが、無理して一緒に行っても煙を吸わされてストレスは溜まるし健康には悪いし、仕方がない。

それから、この日の夜には、リンジャパンが主催する、“kuniko meets EXAKT”と銘打ったライブがあった。
世界的な打楽器奏者である加藤訓子の生演奏と、あらかじめ録音された音とのコラボレーションを試みるという、ユニークな演奏会である。録音された音の再生には、最近LINNが発表して話題になっているEXAKTシステムを使うというから、興味を持った私は一応予約だけしておいたのだ。

しかし、いざ当日になってみると、待ちに待ったプロ野球開幕日であるし、やっぱりテレビで野球が見たくなって、仕事が終わるとそそくさと帰宅してしまったのだが。

で、カープの開幕カードは、2勝1敗となった。1戦目は手に汗握る逆転劇、2戦目は新人の久里投手がプロ入り初登板&初先発でいきなり勝利という、実に嬉しいことになった。今日の3戦目は3安打でゼロ封されて完敗だったけれど、以前は大の苦手としていたナゴヤドームで開幕勝ち越しスタートを切ったのだから、まあ良しとしよう。

他にも書きたいことがいろいろあるのに、時間がなくて書けないのが悩ましい。
新しく買ったヘッドフォンのこととか、LANケーブルのこととか、それからいい加減に「オーディオ遍歴 第3期」も書きたいんだけどなあ。うーむ。

by raccocin | 2014-03-30 18:34 | 応援してます広島カープ

『色彩を持たない〜』を読了

今日は、奥様が所用で出かけているので、会社を休んで家で子守り&留守番をしています。昼間から、冷えた白ワインを飲みながら書いてます。

さて、村上春樹の新作、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読み終えた。
4月にこの本が発売されたその日に買ってきたのに、今頃になって、やっと読了である。ここまで時間がかかったということ自体が、私のこの本に対する印象をある意味物語っているだろう。

もちろん、私は春樹の文体(独特の上手い比喩も含めて)、そして何よりその世界観が好きなので、最初から最後まですらすらと読めたし、決して退屈させられることはなかったのだけれど。

さて、この小説のストーリーは、簡単に言うとこんな感じ。

《高校時代から続いている仲良しグループから、大学2年のとき、理由も明らかにされず自分だけつま弾きにされた青年。それ以来ずっと封印していた心の傷に向かい合うため、30代半ばになった彼は、真相を明らかにすべく立ち上がる》

これって、並の作家が書いていたら、とてつもなく退屈で感傷的な小説になってしまっていただろう。
それを、こんなにも読み応えがある作品に仕上げる手腕は、春樹先生、やっぱり凄いとは思う。いつもながらの、静かだが濃密で、読み手のイマジネーションを豊かに広げてくれる春樹ワールド。
それに浸ることができて、今回も良い時間を過ごさせてもらったという気持ちはある。しかし私は、それ以上の感慨は受けなかったというのが正直なところだ。

前作の『1Q84』が、あまりにも大傑作だったせいもあるだろう。あれと比較すると、どうしても小粒に見えてしまうのは仕方がない。古くからの春樹ファンが読むならば間違いなく楽しめるだろうが、初めて読む春樹の作品としては、あまりお薦めできない。

じゃあ、初めて春樹を読むのなら、どれが良いかって?
私のお薦めは、『風の歌を聴け』、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』、『1Q84』あたり。

長いのは嫌だという人は、もう圧倒的に、デビュー作の『風の歌を聴け』がオススメ。
この小説ときたら、ストーリーらしきストーリーは無いと言ってもいいくらいなのだが、クールかつポップな言葉の魅力だけで、存分に楽しませてくれるのだ。この人も、若い頃はこういうものを書いていたのです。

これが気に入ったら、後に続く『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』も大好きになること請け合い。
これら初期3部作は、私にとって宝物だ。実を言うと、さほど読み返したりはしていないのだが、あれって良かったよなあと思い出すだけで、なにか心がほんのり暖まり、切なくなってしまうような魅力的な作品群なのだ。

もしも、こういうものを大学時代に読んでいたら、学生生活の一日一日を、もっと大事にしていただろうになあと想像してしまうような作品群である。私が春樹を読み始めたのは社会に出てからだったのだが、学生の頃から読んでいればよかったと悔やんだものだ。

そんなこと言われてもピンと来ないって?
まあ、ここはひとつ騙されたと思って(騙されたくない人も)、ぜひ読んでほしい!
by raccocin | 2013-06-05 15:37 | 本と雑誌で心の旅を

iPhoneで読書開始 するとiBookstoreでビッグニュースが

ちょっと前に書いたけれど、最近iPhone依存度がすごく高くなっていて、通勤電車の中でも本を鞄から取り出す頻度が激減していた。こうなったらそれを逆手に取って、iPhoneで電子書籍を読むしかないと言っていた話だが、ほんとにやってみました。

とりあえず、大メジャーなところでkindleアプリをダウンロード、試しに1冊読んでみた。

読んだのは『三四郎』。別に、タダで読めるからと思って古典を選んだのではない。
記念すべき人生初の電子書籍に、しょぼい本を選びたくなかったのだ。それで漱石先生である。『三四郎』はずっと昔に読んだことがあって再読となるが、やっぱり良かったです。さすがです。

で、ちょうど『三四郎』を読み終えたその日の夜、たまたまiPhoneでApp Storeのアイコンを触ってみると、なんと。あのiBookstoreが、遂に遂に、日本語の有料書籍を扱い始めたというではないか。これはビッグニュース! そしてナイスタイミング!

喜び勇んでiBooksアプリをダウンロード、せっかくだからご祝儀にと、1冊買わせていただきました。
買ったのは、澁澤龍彦『エロスの解剖』。私、真面目そうに見えて、実はエロが好きなのです(男はみんなそう?)。とはいえ、澁澤先生が語るエロだから、そんじょそこらの下衆なエロとは一線を画すのだが。

この本、ちょっと衒学的な感じを受けるのも確かだけれど、私のように、いまだヨーロッパ文明に憧れが強い人間にとって、やっぱり澁澤先生はカッコいいのだ。

最初のうち、iPhoneで読む電子書籍は字も小さくて読みづらかったが、三四郎を読み進めていくうちに、案外慣れてきてしまった。

だから、キンドル ペーパーホワイトやiPad miniを買う気がなくなってきた。
今は、miniじゃないほうのiPadを買って、ステレオサウンドなんかを読んだら楽しかろうなあ、なんて考えている。ああいう分厚い雑誌も保管場所を考えずに買えるようになったら、どんなに嬉しいだろうなあ。ムフッ。
by raccocin | 2013-03-10 22:48 | やっぱりAppleが好き

iPhone依存度急上昇すなわち読書量激減?

昨日、WOWOWメンバーズの登録をして、WOWOWメンバーズオンデマンドのアプリをiPhoneにダウンロードしてみた。このアプリを入れると、パソコンやスマホでもWOWOWが見られるようになるのだ。
見られると言っても、すべての番組が見られるわけではなく、スポーツなどの生中継、それとWOWOW側でピックアップした番組がライブラリになっていて、それらが見られるだけなのだが。

で、早速使ってみたが面白い。しかし、こんなものがiPhoneに入っていると、電車の中で映画などを観てしまって全然本を読まなくなってしまいそうだ。私の読書は、ほとんどが通勤の電車の中なので、iPhoneをいじる時間が長くなる = 読書時間が短くなる、ということなのだ。

iPhoneを買う前は、電車の中で長時間携帯をいじっているのはカッコ悪い、やっぱり本を読むほうが知的でカッコいいのだ、なんて思っていたのに。
以前は電車に乗ると、初めにササッとメールをしたり、広島カープの情報収集をしたりした後は携帯を鞄にしまい、本を取り出して読み始める、というパターンだった。

しかし、iPhoneを買ってからというもの、電車内でiPhoneをいじる時間が明らかに長くなっていて、本を読まないまま目的とする駅に着いてしまうことも増えている。

メールにしろサイトの閲覧にしろ、スマホって、いわゆるガラケーとは比較にならないくらい快適なので、ついつい長い時間使ってしまうんだよなあ。でも、そのせいで読書量が激減するというのは、どうしたものか。なんか嫌だね。

と考えていたら、ハッと気が付いた。iPhoneの中に電子書籍を入れればいいんだ。なんと、簡単なことでした。

いつだったか、外出中に食事をしていたら、近くのテーブルにいたおばさんが、こんなことを話していた。
「いまどきの、スマホっていうの? あんなの持っちゃったら、中毒になっちゃうわよね」

私が中毒まで行っているかは分からないが、いずれにしろ、iPhone依存度が飛躍的に上がっているのは間違いない。
それを逆手に取って、iPhoneの中に本を入れてしまえばいいわけだ。あるいは、キンドル ペーパーホワイトかiPad miniを買ってもいいし。iPhoneだと、読書には少し画面が小さすぎる気がするから。いや待てよ、雑誌や写真集のためにiPadを、読書用にペーパーホワイトを買う、というのがベストかな。ムフッ。

まあ、お小遣いの少ないおじさんとしては、まずiPhoneで本を読むところから始めてみますかね(やれやれ)。
by raccocin | 2013-01-20 23:57 | やっぱりAppleが好き

週刊ブックレビューが終了

NHK-BSでやっていた「週刊ブックレビュー」が終わるということを、週刊誌で関川夏央が書いていた。そうか、遂に終わってしまうのか。もう20年も続いていたらしい。

一時期この番組が好きで毎週見ていたものだが、正直飽きてしまい、ここ何年かはまったく見なくなっていた。しかし、いざ終わってしまうとなると淋しく思う。

毎週見ていた時期にしても、番組内で紹介された本を買って読んだかと言うとそうでもなかったんだけどね。でも、この番組がなければテレビになどまず出なかったであろう作家たちが多数出演し、あれこれ語る姿を見られるという、そこが面白かったし貴重でもあった。上述の関川夏央も結構出ていたっけ。

長年司会を務めた児玉清も亡くなってしまったしなあ。この番組が終わるのは、本読み文化(?)が衰退しつつある時代の象徴のような気がして、やっぱり淋しいね。

最終回を記念に録画しておこうと思っていたのに忘れてしまった。でも、今日(18日)深夜2時15分からBSプレミアムで再放送するらしい。過去に放送された映像を蔵出しするというから、本好きの方は最終回を見て、しみじみしましょう。そして、読書の楽しみの灯が消えぬよう、未来へ受け継いでいきましょう。
by raccocin | 2012-03-18 23:34 | 本と雑誌で心の旅を

映画『ノルウェイの森』が絶賛されたらしいけど

さっきネットのニュースを読んでいたら、映画『ノルウェイの森』がベネチア映画祭で絶賛されたらしい。上映後、会場は3分間のスタンディングオベーションだって。

でも、私はこの作品は観ないつもりだ。何年か前に映画化が決まったことを知ったときから、絶対に観ないと決めていた。

『ノルウェイの森』は、私が春樹の作品に目覚めた初めの作品で、それなりに思い入れがあるということもある。そして何と言っても、映画なんか観てしまうと、この本を手に取る度に、出演した俳優の顔やら情景やらが思い浮かんでしまい、それが自由な読書の邪魔をするに違いないからだ。想像力を自由に羽ばたかせることを映像によって制限されてしまう、と言えばいいだろうか。

実際、『風の歌を聴け』などの作品が既に映像化されているのは知っていたが、一度も観たことはない。

そもそも、ある小説を読んで良いと思ったからと言って、それを映像化したものを観るという体験自体が私にはない。そのことに興味がないのだ。

映像作品を観てから原作を読むならともかく、原作を読んでから映像作品を観たら、重要なエピソードをあちこち端折ってある省略感だけが残ってしまい、まず満足できないだろう。ましてや、『ノルウェイの森』は上下巻の長編なのだ。

もし映画を観たとしても、「おい、いきなりその場面からここに飛ぶのかよ」と、ずっと突っ込みを入れ続けることになるだろう。

まあ、正直に言うと観てみたい気もなくはないんだけどね。でも、やっぱり激しく後悔すると思うので観ないつもりだ。
by raccocin | 2010-09-04 12:38 | 映画にアートにいろいろ鑑賞

島田裕巳はDSユーザだった&春樹先生への提言

今、島田裕巳と、小幡績という経済学者による共著『下り坂社会を生きる』という本を読んでいる。本の内容はそこそこ面白く、楽しませてもらっているが、その中で島田裕巳がこんなことを言っている。

《たしかにストックを活用しながら、お金をかけない生き方みたいなものは必要かもしれないですね。今までは毎年のフローを当てにして、お金をかける生き方だったから。
 うちのオーディオは、音がソフトで変わるんですよね。デジタルストリーミングという方法で、ハードディスクに入れた音源を聴いてるんですけど、ソフトが変わるだけで音が変わる。ソフトはタダだから、音をよくするためにお金をかける必要がない。従来のオーディオシステムだったら、何十万円も出して、新しい装置を買わないと音が向上しない。今はそうじゃなくて、ソフトをバージョンアップすることによって、音が変わっちゃうんですよね。》

デジタルストリーミングなんて言っているから、ひょっとしたらLINNのDSのことを指しているのかもしれない。そう思って調べてみると、やっぱりそうだった。この人、実はオーディオ好きで、DSを使っているらしい。

けっこう有名な学者だから、一番高価なKLIMAX DSを使っているかと思いきや、なんとMAJIK DSだった。AKURATE DSですらない。思ったより金持ちじゃないのかも。

ブログを読むと、けっこうオーディオの記事がある。こんなにオーディオが好きな人とは知らなかった。ちなみに、共著者の小幡氏もオーディオマニアらしい。
島田先生、サウンドクリエイトにも出入りしているらしいから、いつかばったり会ったりして。たいして嬉しくないけど。

なんとなく夢想したのは、もしも村上春樹がDSを使い出し、そのことを喧伝したらどうなるかということ。DSは爆発的に広まるのではないか。あの人のサブスピーカーはAV5140というLINNの製品だから、それもありえなくはない話だ。

天才エディターにして大のオーディオマニア、ヤスケンこと安原顯さんが生前、「春樹ほどの大金持ちなら、もっと高価なオーディオ機器を使ってほしい」という趣旨のことを書いていた。たしかにそう思う。

村上春樹ときたら、相当なお金持ちのはずなのに、アキュフェーズのプリメインアンプという意外と庶民的な製品を使っている。
ここは石田衣良のように、ウィルソンオーディオとかマークレビンソンとか、そこらへんのハイエンドな機器を使ってほしいものだ。『1Q84』でガッポリ儲けてるんだからさ。

春樹先生なら石田衣良あたりとは影響力が桁違いなのだから、高価な機器のことはともかく、オーディオの楽しさをあちこちで喧伝してほしいものだ。


*村上氏、石田氏の使用機器の情報は2005年発売『Sound&Life』による
by raccocin | 2010-05-27 21:18 | 音楽とオーディオが好き


考えることが好きで、のんびり屋。5歳男児の父。音楽、映画、アート、コーヒー、それにワインを愛します。完全禁煙のお店も好き。


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