パーヴォ&N響のコンサートへ マーラー/交響曲第2番「復活」を聴く

◎マーラー/交響曲第2番「復活」
エリン・ウォール(Sop)/リリ・パーシキヴィ(Alt)/東京音楽大学(Cho)/パーヴォ・ヤルヴィ指揮/NHK交響楽団
NHKホール
2015年10月4日

オーケストラによるコンサートは本当に久しぶり。ブログに綴った「コンサート歴」を遡ってみると、どうやら2005年秋に聴いたエンニオ・モリコーネ&ローマシンフォニー以来の生オーケストラ鑑賞らしい。ちょうど10年ぶりである。いやはや、随分とごぶさたしてしまったものだ。

初めに告白しておくと、私は長いこと、日本のオーケストラというものを信用していなかった。過去に日本のオーケストラを真面目に聴いた体験といったら、1991年に行われた大友直人&東京シティ・フィルハーモニックのコンサート、それから98年に発売されたデュトワ&N響によるCD、「プロコフィエフ/『ロメオとジュリエット』抜粋ほか」、この2つだけである。

正直なところ、それらは私になんら強い印象を残さなかったので、「日本のオケなんてこんなものか」という、今思うと大変失礼かつ浅はかな考えを持つに至ってしまったのだ。

中学生のときに洋楽ロックを聴き始めた私は、その後もクラシック、ジャズと聴く音楽の幅を広げていったけれど、基本的に西洋人が演奏する音楽ばかり聴いてきた。もちろん、例えば小澤征爾、内田光子、ヨーヨー・マ、チョン・キョンファなど、東洋人の音楽家たちも聴いてはきたが、彼らは指揮者や独奏者だ。オーケストラについては相変わらず西洋のものばかり聴いていたというのが実態である。

そんな私が、なぜ今回、N響のコンサートに出かけたのか。その理由は、ツイッターで指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ氏をフォローしたところ、すぐにフォローバックしてくれたからだ。まあ実際には、ツイッターのアカウント管理などはマネージャーさんがしているのかもしれない。しかし、クラシック音楽家のアカウントからフォローされたのが初めてだったのもあって、結構嬉しかった。それで気分を良くした私は、「ではお礼にコンサート参りでも」となったのだ。我ながら、ものすごく単純である(笑)

さて、肝心の演奏についてだ。NHKホールに来ること自体が、97年のベルリン国立歌劇場による『ヴァルキューレ』以来で、私自身まだ2回目である。このホールはテレビで見ていると少し冷たい感じも受けるが、実際には思ったよりも暖かみがあったし綺麗だった。私が座ったのは1階席の最後列、中央やや右に位置する席である。

オーケストラは現代的配置ではなく、通常右側に来る低弦群を客席から見て左側に置いていた。弦楽器は左から第一ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第二ヴァイオリン。コントラバスは第一ヴァイオリンとチェロの背後に横一列に並んでいる。

さて、いよいよパーヴォが舞台に現れ、演奏が始まった。出だしからして、弦楽器が厚く暖かみのある音を聴かせてくれる。
ところで我が家のリビングには、LINN MAJIK DS-I とPIEGA Premium 3.2からなるオーディオシステムがあって、私は普段からそれなりのクオリティの音を聴いていると思っていたけれど、ステージから届けられるこの暖かく柔らかい響きは、やはり素晴らしい。あらためて生音の気持ちよさを実感した。

音と言えば、ここで断っておきたいのは、私にとってN響の生演奏は初めてだし、NHKホールにしてもオーケストラがステージに載った状態の音を聴くのは初めてなので、どこまでがホールの音で、どこからがオケの音なのか、まったくわからないということである。あくまでも、この日の私の耳にきこえた響きを感じたままに書いているのでご了承いただきたい。

ヴァイオリンはどちらかというと、すっきりとして歯切れが良い。この日の演奏は全体的に、ティンパニやシンバルなどの打楽器、それにトランペットなど金管楽器の華やかなアクセントが明快で、それが弦楽器の明晰な響きと相まってメリハリの効いたダイナミズムにつながっていた。

ところで、演奏を聴き進むうち、初めに感じた音の厚みや暖かみというものにもすぐに慣れてしまい、トゥッティなどはもう少し厚みがあってもいいのに、などと思い始めてしまう。実際、この日のN響はピラミッドバランスというよりも、もう少しフラットなバランスの音をきかせていた。良く言えば、すっきりとして垢抜けたサウンドだが、ここぞというときの低弦群の支えには、もっと堅固なものを求めたい気がした。

とはいえ、全体的に弦楽器の技術はかなり高い。私は欧米のオーケストラの来日公演も聴いてきたけれど(わずか20回弱…)、それらと比べても遜色はないだろう。むろんウィーンフィルだとか、「超」がつくような一流どころと比べたら負けてしまうが、私が聴いた海外オーケストラの弦楽器の平均的実力が、この日のN響よりも格段に優れていたとは決して思わない。

特筆すべきは中くらいの音量で弦楽器を歌わせる部分で、まるで氷の上を滑るような美しくしなやかなフレージングは、カラヤン・レガートならぬ「パーヴォ・レガート」と呼びたくなるくらいだった。

一方、管楽器については、もっと表情の豊かさが欲しかったというのが正直な感想である。こんなところでも日本人は、個の力量を発揮できる管楽器よりも、集団でやる弦楽器のほうが得意なのだろうかと妙なことを想像してしまう。マーラーの音楽は、管楽器がソロイスティックな技巧を披露できる聴かせどころをふんだんに用意しているけれど、N響の管楽器奏者たち、特に木管楽器の奏者たちは、どこか控えめに演奏しているようにきこえてしまった。

これは指揮者のパーヴォが、あえてそうしたバランスでやらせているのかもしれないが、やや物足りない。その点、私の愛聴盤であるパーンスタイン&ニューヨークフィルハーモニックの87年ライヴ録音では、管楽器が実にニュアンス豊かに歌っていて、とてもカラフルで生き生きした印象を与えるのだ。

また、バーンスタイン盤では天国的なまでに美しい第四楽章の冒頭も、このコンビがきかせる響きはどことなく現世的で、いまひとつ恍惚感に乏しい。トランペットの量感自体はたっぷりしているのだが、なにか楽天的なところがあり、祈りに満ちた厳粛さを感じさせてくれないのだ。

しかし終楽章の設計は入念で、長大なこの楽章を緩みなくダイナミックに演奏しきった。合唱にはやはり一層の厳粛な表情を求めたいが、音大の学生がやっていることを考えたら満足すべきなのだろう。そして何と言っても、パーヴォとオーケストラは、最初から最後まで引き締まったアンサンブルを保って、このスペクタキュラーな交響曲を一気呵成にきかせてくれた。

正直に言うと、それほど精神性の深い演奏とは思わない。しかし音楽の外枠をしっかり提示し、基本的にインテンポで流れを重視したその演奏は大変スマートな印象を与える。反面、第二ヴァイオリンやヴィオラといった内声部の表情は控えめで、立体感という点ではやや不満も残る。

とはいえ、マーラーのサウンドが持っている抜群の面白さを、透明度が高く洗練された響きでドラマティックに描いてみせてくれた。私はとてもリラックスした気分で、心から演奏を楽しんだし、日本を代表するオーケストラの高い実力を今頃になって認識することもできた(遅すぎる!)。

下衆な話で申し訳ないけれど、こういう上等な音楽とサウンドをS席でも9,000円程度で楽しむことができるのだから、もっとこのコンビの演奏を聴いてみたいと思うようになった。欲を言えば、このオーケストラの本拠地が私の大好きなサントリーホールだったら、とも思う。しかし、それは無い物ねだりである。

いや、むしろ最も演奏し慣れているNHKホールでの演奏こそ、N響の実力がいかんなく発揮されるのだろう。それに、ひとつのオーケストラをその本拠地とするホールで繰り返し鑑賞するという体験自体が、ちょっと想像しただけでもすこぶる魅力的だ。それは私の音楽観にも少なからぬ影響を与えるに違いない。

私にとって、日本のオーケストラを生で聴く2回目の体験は、すばらしく有意義なものとなった。パーヴォ・ヤルヴィ氏とNHK交響楽団には感謝の一言しかない。「どんな音楽にも虚心坦懐に耳を澄ませること」、その大切さをあらためて胸に刻んだコンサートになった。

by raccocin | 2015-10-12 11:04 | 音楽とオーディオが好き


日々の想いをつらつらと。7歳男児の父。音楽、映画、アート、コーヒー、それにワインを愛します。


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